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コラムその57 「漢」〜大知編〜
2017/03/30 06:16

乾坤一擲。折れかけた”プライド”を取り戻し、17年の想いをぶつけた柴田大知。そして、折れかけた”紅蓮の翼”を広げ、大知に応えたマイネルホウオウ。正に人馬一体で掴んだ奇跡の勝利だった。スタンドを見上げればレースを祈るような想いで見つめる人がいた。2人の子供と共に応援に駆けつけた柴田の妻の姿であった。
勝利の瞬間、小さな肩は小刻みに震えた。潤んだ瞳の先には、遠く滲(にじ)む夫の晴れ姿。渾身のガッツポーズ。そして人目もはばからず涙する”漢”、柴田大知の雄姿であった。同時に柴田は最愛の妻と子供達に平地G1初勝利と節目の200勝を贈る事となった。さらに嬉しい事に、平地&障害のG1制覇は史上2人目の快挙達成だった。

レース後、普段のレースと同じように真っ先に脱鞍所へ戻ろうとする柴田。頭が真っ白だったのだろうか。その時、後ろから騎手仲間達の声。「大知!G1勝ったんだぞ。ウイニングランしないと!」。仲間の声に背中を押され、ファンの前で照れくさそうに右手を挙げながら引き返す柴田に、畠山師も涙目でお出迎え。「僕もG1初制覇だが、ジョッキーがうまく乗ってくれたことに尽きる。真面目な男にやっと春が来た」と後に語る。そして勝者だけが許されるウイニングランで、今度は左手を天に突き上げた。ゴーグルを外し泣きじゃくる柴田に多くのファンもまた涙した。

そして、ここで涙の勝利ジョッキーインタビューを記す。
 
「(おめでとうございます)ありがとうございます。(涙が思わず出ましたね)いや、ごめんなさい。嬉しいです。(激しいレースでした)そうですね、良く覚えて無いです。(欲しかった平地G1タイトル、いかがですか?)そうですね、いや、本当に本当に嬉しいです。(皐月賞の権利を捨てNHKマイルに来ましたね)そうですね、あのそういう意向でこっち来て頂いてそれで結果出せたんで本当に良かったと思います。(今日のレースの1番のポイントは?)いや、分からないですね、ちょっと覚えて無いです。夢中で追ってたんで分からないです。(勝った瞬間は?)いやもう、信じられないぐらい嬉しかったですね、はい。(マイネルホウオウへのこの先の期待は?)そうですね、あの、折り合いも付くようになったし、すごくテンションも落ち着いてくれてるんで、もっともっとこれから成長してくれると思いますんで楽しみです。(区切りの200勝は)そうですね。そうなったら良いな、なんて調教師の先生と話してたのが本当にそんな風になって夢のようですね。(応援してくれた皆さんへ一言)僕をこの馬に乗せて下さって、関係者の方々、皆様ありがとうございました。(本当におめでとうございました)ありがとうございました。」

袖で何度拭っても、涙が止めどなく溢れてくる。漢、柴田大知は人目もはばからずに号泣した。苦労した漢に相応しい、美しい涙の輝き。柴田とマイネルホウオウの名が今、燦然(さんぜん)と”輝く”競馬史に刻まれた。

その後、柴田はファンの前でこう語る。
「G1を勝つ日が来るなんて夢のようで。僕の力じゃない。全ては成長したホウオウのおかげ。デビュー前から凄い乗り味だった馬が課題の折り合いを覚えてくれた」と。柴田は自分の手柄をホウオウに譲った。ここにも彼の人柄の良さが表れているのではないか。
「G1勝ちって気持ちいいですね」。駆けつけた家族に囲まれながら、今度は満開の「笑顔の花」が咲く。泣き笑いの騎手人生。苦節17年の苦労人に35歳の遅い春が来た。

そしてマイネルホウオウ。その年の脚部不安などで1年半以上の休養を余儀なくされ、復帰後も当時の豪快な走りは影を潜めている。願わくば、柴田大知とのコンビで再度復活して欲しい。大丈夫、お前はフェニックスの仔だ。不死鳥の遺伝子が再燃し、いつか必ずや甦(よみがえ)る日が来る事を。そう「鳳凰は死せず」なのだ。

〜完〜

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